【「造形作家 玉田多紀 ダンボール物語」展示会場(ウッドワン美術館)】 ウッドワン美術館に入館しチケットを買って、夏期特別展「造形作家 玉田多紀 ダンボール物語」(9月23日まで)の展示会場に入ると、古紙ダンボールのみを使って製作された生き物たちの迫力と美しさが伝わって来ました。玉田多紀(たまだ・たき)氏は全身を使ってダンボールを丸め、制作しやすいように柔らかくしたり、水に浸して解体したりして、段ボールという素材から粘土や絵の具を作り出し、無限の可能性を引き出し表現しています。【他の写真】
【「作家の物語」】 この作品は2012年~2015年に製作された作品の中から22点を選定して構成されています。この作品に限らず、玉田氏の作品は、生き物たちの皮膚の質感、瞳の輝き、顔の表情など、細部の繊細な表現が鑑賞者を魅了していきます。しかも、これらの全ての作品は、現代を生きる私達が直面する課題をテーマに製作されています。また、人々に社会の在り方(本来のあるべき正しい形)や、人間としての在り様(本来のあるべき姿)を問いかけています。「ダンボール物語」は「0歳からの芸術鑑賞」をキャッチフレーズに、大人から子供まで楽しめる展覧会として日本各地で開催されています。【他の写真】
【造形作家 玉田多紀(たまだ・たき)氏(写真はウッドワン美術館のサイトより)】 玉田多紀氏は1983年(昭和58年)兵庫県生まれ。2007年(平成19年)多摩美術大学造形表現学部造形学科卒業。2007年トーキョーワンダーウォール公募入選。2010年度YOKOHAMA創造界隈ZAIMコンペ受賞。2010年度世田谷区藝術アワード”飛翔”生活デザイン部門受賞。2007年から2024年まで毎年、海外や日本各地で多数の作品展を開催しています。【他の写真】
【「恐竜の物語」】 <ここから以後の作品の説明文のほとんどは「造形作家 玉田多紀による展示作品鑑賞ガイド」から引用しています>「恐竜の物語」のエリアに来ました。ミセス・ダイナソーという恐竜エリア。首の長い全長6mのブラキオサウルス、卵を守る高さ2mのドラゴン、その卵を狙う50cmの翼竜、そして美術館の入口にいる高さ1mのオヴィラプトル。この4体の恐竜から構成されています。【他の写真】
【翼竜がドラゴンの抱える卵を狙っています】 3体の恐竜が、ドラゴンが守っている卵を狙っているのです。玉田氏は「女性の作家ならではの悩みを作品化したいと思って、自分を母恐竜にたとえて作りました」と語っています。良き母親に挑戦するとともに、我が道を奮闘する玉田氏の葛藤を表現する作品です。【他の写真】
【「恐竜の世界」の隣のエリアが「吉和の物語」】 「吉和の物語」は新作です。玉田氏の作品展が廿日市市の吉和地区にあるウッドワン美術館で開催されるということで、同美術館が吉和地区の民話や伝承を調べて、それに基づいた作品制作を玉田氏に依頼して完成した作品です。吉和地区の熊崎という地名に由来する物語です(ウッドワン美術館から約200mの場所に「熊崎」というバス停がありました)。物語は道に迷ってけがをした狩人が熊に介抱してもらって吉和村に帰してもらいました。ところが、その後、みんなで熊を退治しに行くという、恩をあだで返すという話です。それで熊が怒って、人間達を八つ裂きにしました。その八つ裂きの現場が「熊崎」という地名の由来です。【他の写真】
【「吉和の物語」】 昔より現在のほうが日本各地で熊が出没し人間に危害を加えることが多くなっています。今、熊と人間がどのように向き合うか問われています。「吉和の物語」の作品は親熊と子熊が立っており、それに向かってヘビが口を開けて向かっています。鑑賞している私達は熊の親子に引き込まれてよく見ると、やがてハッとします。子熊はすごく可愛らしい。ところが見上げると親熊は哲学者みたいなすごい眼差しでこちらの人間を見て、舌を出しているのです。ヘビが子熊に襲い掛かろうとしていますが、よく考えるとヘビは熊に勝てません。同様に鉄砲を持っている人間はクマに勝てますが、丸腰の人間は熊に勝てません。生き物と人間の共存とは、見る人によってそれぞれの思いが浮かんでくる作品です。【他の写真】
【「カエルの物語」のエリア】 「カエルの物語」のエリアには葉っぱが2つあり奥の大きな葉っぱの上に体長2mのカエルが乗っています。上にはクモの巣が張り巡らされていて、沢山の大きなクモがこちらを監視しています。クモもカエルも大きいのですが、ここでは私達が小さくなったと思って鑑賞します。【他の写真】
【葉っぱの上に乗った大きなカエル(体長2m)】 私達は自分の視点で生きています。けれどもうまくいかない時に、そのほかの視点をどれだけ想像できるでしょうか。人間関係だけでなく、自分の関わる物事でも、自分がいることによってどれだけ影響があるのか、それらをどこまで想像できるのでしょうか。それが一番大切な力ではないでしょうか。【他の写真】
【「アネモネの物語」】 アネモネの花から動物が顔を出すという作品が壁にかけてあります。黄泉の国というか、この世界ではないということを表現した作品です。花から動物が顔を出していますが、世界から顔を出しているようなイメージにも思えます。それと、それぞれの動物の特徴ある全体が見えなくても顔だけで分かってしまいます。例えばキリンは首が長いけれども首が見えなくてもキリンと分かります。お尻だけを見てもそうですが、生き物のらしさは、どこの部分をとってもあるのではないでしょうか。そんなことも意識して生きていくことが必要ではないでしょうか。【他の写真】